Editorial
General Science

生命科学研究の電気泳動画像は揺らいでいた

Shinichiro Takezawa

Abstract

論文の信頼性向上を目指し、生命科学(医学も含む)分野の電気泳動実験における「画像加工」の頻度や傾向を調査した。Nature誌、PNAS誌を対象とし、全374件の論文の画像加工を検証した。その結果、2000年~2006年のNature誌302件において、20件6.6%が画像加工の可能性が高いという結果となり、画像加工の可能性が示唆されるものも合わせると、72件23.8%もの論文が該当した。また、PNAS誌(2003年 Vol.100(1)~100(3))では日本人名が含まれる論文と含まれない論文で比較検討したところ、日本人名が含まれる論文で画像に疑義のあり調査・検証が必要と考えられる論文の率(画像加工要調査率)は42.9%となり、日本人名が含まれない論文での17.2%と比べて有意(P<0.05)に高い傾向が見られた。画像加工が示唆された論文の著者らは、真実のデータを示し、図を差し替え、もしくは論文の撤回を行うなど、真実を明確化するべきである。また、インパクトファクター重視の人事評価により得た大学等のポストは、誠実な研究者に明け渡すべきであり、大学当局も研究者の不正データベースを活用して、インパクトファクターだけでなく、不正データベースの情報を割り引いて人事評価するべきであろう。

Author and Article Information

Author infoゼネラルヘルスケア株式会社

PublishedJun 6 2014

CitationTakezawa S (2014) Electrophoresis Images Diminish Credibility of Life Science Research—An Examination of Image Manipulation in Academic Papers. Science Postprint 1(1): e00024. doi: 10.14340/spp.2014.06E0001

Keyword


Introduction

オープン・アクセス学術誌「Science Postprint」を出版するゼネラルヘルスケア株式会社は、論文の信頼性向上を目指し、生命科学(医学も含む)分野の電気泳動実験における論文捏造のよくある手法である「画像の使い回し」ならびに「画像加工」に関し、それらを解析する仕組みを構築し、受託サービス「捏防」として外部に提供している。
論文の不正には様々な手法が知られるが1、特に「画像加工」はもっとも頻繁に見られる不正と考えられ、科学的事実をねじ曲げてしまう悪質性も高い。このような観点から、過去の論文を外部の研究者らと共同して、最初の調査対象として、日本人が関連した学術論文において、どれぐらいの数の論文で行われているか実態を調査した。


Methods

取得データ

2000年~2006年に発行されたNature誌から、電気泳動の実験画像を含み日本人名が著者に含まれた全302件の論文、2003年1月~2月に発行されたProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)誌100(1)~100(3)から、電気泳動の実験画像を含む全72件の論文を調査した。各論文から電気泳動の実験画像を切り出し画像加工の可能性を評価した。

画像加工の評価

論文はPDFファイルを取得し、画像をコピーして、解析ソフトにペーストし、コントラスト、もしくはガンマ補正を変動させることにより、画像の変化を評価した。画像加工の評価は3段階で評価した。評価0は画像加工が検出されなかったものと定義した。評価1は画像加工の可能性が示唆されたデータ、疑いはあるが根拠が弱いデータ、もしくは画像加工が確定したとしても、ネガティブコントロールもしくはポジティブコントロールなどの論文の趣旨には影響を与えないデータを定義した。論文内の画像のコントラストが高く、背景がホワイトアウトしていて正当な評価ができないような論文は評価1とした。また、その他疑いはあるが明確ではない論文は評価1とした。評価2は画像加工の可能性が高いものと定義した。例えば、同一画像内でコントラストなどを調整し、目視できるレベルで切り貼りなどが検出されれば評価2とした。

Results

Nature誌の2000年から2006年における、電気泳動関連データを含む、著者に日本人名のある論文の画像加工の評価の結果をTable 1に示す。302件の論文を調査した結果、72件23.8%の論文に画像加工の可能性が示唆され、20件6.6%の論文は画像加工の可能性が高いことが示された。評価2の20件のうち、6件は責任著者が日本の研究機関に所属しており、11件は米国の研究機関に所属していた。一方、第一著者は10件が日本人名であり、そのうち4件は、当該研究時、その日本人が米国に留学中もしくは移民だったものと思われる。なお、その4名中2名は2014年現在、日本にて教授職に在職中である。また20件のうち、米国内の研究機関で、同じ責任著者だった論文が2名2件ずつあった。

Table 1 Nature誌の2000年から2006年における電気泳動関連データの日本人が関与した論文の画像加工状況

Table1

学術誌の銘柄ごとに画像加工による改竄の可能性に変化があるかを、PNAS誌においても検証した。2003年に出版されたPNAS誌100(1)から100(3)までの72件の電気泳動関連の画像データがある論文全ての画像加工評価を行った。その結果Table 2に示すように、評価0は56件77.8%、評価1が13件18%、評価2が3件4.2%となり、PNAS誌の画像加工要調査率は22.2%となった。次に、著者に日本人名を含む論文と含まない論文を分けて集計した。日本人名が著者に含まれる論文では、評価1と評価2を足した画像加工要調査率は42.9%となり、日本人名が含まれない論文での17.2%と比べて有意(P<0.05)に高い傾向が見られた。なお、Nature誌とPNAS誌の雑誌の違いによる日本人著者を含む論文の画像加工要調査率は有意差が得られていない。

Table 2 PNAS誌の2003年100(1)から100(3)における電気泳動関連データの全論文の画像加工状況

Table2

Discussion

画像加工の実態

本研究では、2000年以降の国際的学術誌の電気泳動の画像に対して、画像加工評価を行った。その結果、Nature誌においては6.6%に画像加工処理が行われた可能性が高く、23.8%の論文は画像加工に関して調査するべきと結論した。これらの結果は、報道などで公表される論文捏造疑惑は氷山の一角に過ぎず、同様の捏造が有るにも関わらず、話題に上がっていない研究者が多数存在することを意味している。評価1とされた画像の中には、生データの時点で既にコントラストが高く、バックがホワイトアウトしているケースもあるだろうが、画像ソフトなどで敢えて背景を消したケースも多数ある。よって、評価1の論文全てにおいて、悪意のある画像加工が施されたとは我々も考えていない。また、コントロールだけ別の画像を貼りあわせ、1枚の写真のように見せる処理をしている論文が数件あった。本来であれば、コントロールだけ別枠にして明確に表現すれば問題がなかったケースもある。このようなケースは評価1と評価されており、加工数の過大評価となっている。しかし、定量的な実験では、コントロールと量的な比較を検討しているため、別の実験の画像を合わせてしまっては定量性を議論できなくなってしまう。このようなケースは評価2とした。

画像加工が示唆された論文の著者へのお願い

評価2においては、画像加工の可能性が高いと評価されたということであり、実際には著者から生データを提出され、正しいデータ、もしくは明確なデータが提示されれば、科学的に論文の価値が揺らぐものではない。評価1も同様に、本調査によって、直接的に科学的価値が揺らぐものではない。しかし、すでに10年以上の経過している研究もあり、生データの提示は難しいかもしれない。その場合、再実験が実施され、同様の写真が提示されることが好ましい。再実験ができない場合、別の論文で何がどこまで再現されているかを明示するべきである。再現が示せない場合、もしくは不正を認める場合、論文撤回もやむを得ない選択だろう。科学にとって重要なことは、疑義(者)を断罪することではなく、何が信じるに値するデータであり、何が揺らいでいるデータかをわかりやすくすることだと考えている。以上より、我々は画像加工が示唆される論文の著者には、画像加工が杞憂であるのか、不正だったのかをデータを元に科学的議論として明示して欲しいと願っている。論文の審査を通す上で、当時はナンセンスだと思われていたことが、実は現象としてあり得ることで、論文の中で隠して見落としていた現象の中に、真の科学が隠れているかもしれないのだ。

背景にあるもの

Nature誌における20件の評価2の背景は、著者ごとに事情は様々であろうが、PNAS誌の全件解析から、日本人とそれ以外の研究者の間で画像加工が示唆される率が変わることから、日本人特有の問題が有るのかもしれない。また、我々はいわゆるインパクトファクターの高い学術誌ほど画像加工率が高いかも知れないと考えていたが、現時点ではNature誌とPNAS誌で有意な差は出ていない。
日本人が、第一著者の立場で画像加工の不正をしてしまう背景を考察する。留学中の研究者であれば、日本でのポストを獲得するために成果を出さなければならないというプレッシャーが考えられる。また、地位や名誉を得るための欲得の心があったかも知れない。論文を速やかに通すために、とにかく綺麗な図にして出したかったとも考えられる。日本の国策により、1990年台以降ポスドクは増えたものの、アカデミックポジションや研究予算に限りがあり、日本の産業界でもPh.D.の需要が少ないことも一因と考えられる。

一方、責任著者の立場でグループでの画像加工の不正が行われた可能性もある。今回の調査では20件の評価2事例のうち2件2研究室で画像加工が検出されたが、いずれも米国の研究室であった。組織的に画像加工されている可能性も含め、今後調査が必要であろう。

Conclusions

画像加工などの論文改竄による疑義は、実際のデータを提示するなど、科学的議論により真偽が明確にされる必要がある。著者の責任として、事実を明らかにするべきだ。また、論文不正により得たポストであれば、より誠実な科学者にそのポストを明け渡すべきであろう。論文不正が正当化されてはならず、研究者の人事権をもつ大学や研究機関の当局は、インパクトファクターによる評価も良いが、研究者の不正データベースを手元に置き、不正データを割り引いて考えるべきだ。

References

  1. Takezawa S (2014) Aiming to Improve on the Reliability of Research Papers for the Good of Scientific Progress. Science Postprint 1(1): e00023. doi: 10.14340/spp.2014.05E0005.

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